液晶物質はその分子形状より棒状液晶と円盤状液晶の2つがあります。その中でも、棒状液晶は基板表面の性質を利用することで、膜全体の分子配向を容易に制御できる特徴を有しています。さらに、棒状液晶分子は層構造(スメクチック層)を形成し、層内では2次元の電荷輸送パスを形成し、有機半導体材料として高移動度を示しやすい特徴も有します。また、層構造を形成するスメクチック液晶相の中でも、層内で密に凝集し結晶のように高い秩序性を有する液晶相(スメクチックE相:SmE相)の発現は液晶性有機半導体材料として非常に有用です。
この液晶相(SmE相)を発現する材料として、2011年に私たちが開発した材料が液晶性フェニル-ベンゾチエノベンゾチオフェン誘導体(Ph-BTBT-10)になります。この材料は、210℃から142℃でSmE相を発現し、非対称構造の分子のため、過冷却液晶状態が室温付近まで続きます。そのおかげで液晶性を利用した薄膜作製が容易で、一度結晶化した薄膜は142℃まで安定です。このPh-BTBT-10はトルエンなどの汎用の有機溶媒への高い溶解性を有し良好な製膜プロセス性を有しながら、210℃までの薄膜の耐熱性を備え持ちます。さらに通常の溶液プロセスで作製した多結晶薄膜は高い移動度(5cm2/Vs)を示し、新たな有機半導体材料として注目されています。
H.Iino et al. Nature Communications (2015).
円盤状液晶においては、液晶性フタロシアニン誘導体に注目しています。下記のような内側にアルキル鎖を有する分子は汎用の有機溶媒への溶解性が高く、円柱(カラム)の凝集構造が垂直配向制御しやすく、液晶相で高い移動度(0.3cm2/Vs)を示すことを明らかにしました。フタロシアニン骨格は近赤外線(600-800nm)に強い吸収を有しているために近赤外線のイメージセンサ用の有機フォトダイオードへの利用を検討しています。
H.Iino et al. Appl. Phys. Lett. (2005).
現在、LUMOレベルが深くなる棒状の分子骨格を選び、電極からの電子注入が容易な液晶性有機半導体材料の開発も進めています。
T. -Z. Yang et al. Chem. Lett. (2016).
M.-C. Yang et al. J. Mater. Chem. C (2019).