液晶性有機半導体


液晶性有機半導体の電気特性

現在、私たちが取り組んでいる液晶性有機半導体の電気特性について紹介しましょう。


有機材料における電気伝導は電子や正孔、あるいはイオンが電場によって移動することによっておこります。前者を電子性伝導、後者をイオン性伝導とよびま す。有機材料中の電子性伝導は、一般に電子や正孔が分子間をホッピングすることによって電流が流れる、いわゆる「ホッピング伝導」によって支配されていま す。このため、ホッピングサイトとなる分子の配向は、電荷の輸送に対し極めて大きな影響を与えます。これは、図2に示すように、有機物と言えども分子結 晶において分子分散ポリマーの移動度の105~106倍に当たる0.1~1 cm2/Vs 程度の移動度を示すという例によって示すことができます。

このように電荷の輸送特性から考えれば結晶材料は有機材料において最も理想的な材料形態といえますが、分子結晶は材料としての機械的強度に劣り、 また十分なサイズの結晶を得るのが困難であるといった材料としての致命的な欠点のため、実用的に用いることはできません。このため、材料の 特性を犠牲にしても分子分散ポリマーや非晶質凝集体が用いられてきました。

しかし「液晶性」を利用すれば、結晶に近い分子配向を実現できるため、分子配向に基づく電荷輸送特性の改善と、液晶の液体としての特質によって、均一・大面積という実用材料に求められる要請を同時に満たすことが可能となります。


図3は、この視点に立って開発されたPhenylbenzothiazoleをコアとする新しいスメクティック液晶性光伝導体(7O-PBT-S12)です。この材料は、移動度の測定から、液晶相(SmA相)において6×10-3 cm2/Vsという従来の分子分散系ポリマーの示す移動度に比べて103倍もの高速の電荷輸送特性を示すことが明らかになりました。


コア部の化学構造を工夫することによって電子と正孔の両方の電荷を輸送できる、「両極性」の電荷輸送が実現でき る材料の開発にも成功しています。この代表的な例が図5に示すphenylnaphtaleneをコア部にもつSm液晶(8-PNP-O12)です。この 材料ではSmB相において、電子、ホールとも10-3 cm2/Vsの移動度を示すことをわかりました。 この液晶性光伝導体の示す一つの重要な特徴は、下図のように移動度が温度および電界強度に依存しない点です。これは、分子性結晶を除いて有機材料では初めて見出された優れた特性です。


また,コア部の異なるポリチオフェン誘導体8-TTP-8においても,移動度が電場・温度に依存しないことが明らかになっています。このことから電場温度 依存性のないキャリア伝導が液晶相に固有の特性であることが確認されました。また、各液晶層において移動度が桁で変化しています。これは有機半導体中にお ける電子性伝導がホッピングであるために、その移動度が各液晶相の凝集状態すなわち分子間距離で律速されている為です。